Volume 1 Number 1(創刊号)

「医と食」Vol1.No.1

「医と食」Vol1.No.1

【特集】
「糖尿病最新治療法」
日本における糖尿病患者数は2000万人を超えると推定され、かっての結核や脚気のように国民病となった。糖尿病は合併症をよぼうすることが何より大事であり、血糖と血圧のコントロールが重要であるが、昨年米国で行われていた臨床試験ACCORDにより過度の強化療法は望ましくないという結果が得られ、米国、英国では治療ガイドラインの修正が行われた。本特集では長年糖尿病治療の実践をなさってきた東京都済生会中央病院副院長の渥美義仁先生ンい「最新の糖尿病食事療法について」、国立国際医療センターの野田光彦先生に「わが国の糖尿病合併症予防大規模研究DOIT」について、また患者と心で向き合い、行動変容まで導いた体験をJR仙台病院の武田美由紀先生に解説していただいた。

【鼎談】 
「栄養療法にのぞむ 」
清野裕、折茂肇、渡邊昌
[toggle title=”「医と食」創刊にあたって”] 生理学や生化学を食事との関係で体系化し「栄養学」として学問の独立を図ったのは佐伯矩の業績といってよいだろう。彼は栄養研究所の初代所長として世界の栄養学普及に努力し、栄養士養成をおこない、戦中、戦後の飢饉を乗り切るのに大きな貢献をした。職場、地域、小学校などで栄養価を考えた給食が結核や脚気を駆逐し、体位の向上、健康に大きく役立ったことから国民も栄養の重要性を認識したのである。

日本で本格的に食事療法を研究したのは慶應義塾大学医学部に食養研究所がうまれ、病院給食が行なわれるようになってからであろう。東京帝国大学から慶應の内科学教授として赴任していた大森憲太が初代所長になり、さまざまな疾患に栄養療法を試み、昭和4年から月刊誌「食養研究」が発行された。昭和 11 年には第 33 回日本内科学会総会における宿題報告として「食餌療法」が発表され、多くの医師が栄養療法の重要性を知るきっかけになったのである。当時は薬剤の種類も限られ、対症療法や転地療養が主な治療法であったので科学的な食事療法による治療成果は新たな治療法として歓 迎された。

しかし、最近は薬剤開発や診断、治療技術の向上により栄養を考えた治療はおざなりになっている。食べることは生きることと密着しているので患者の心理面も考えると重要である。私たちはいつからか日々の仕事に追い立てられ、目先のことにしか目が行かなくなって、過去を振り返る余裕も、10年先、20 年先あるいはさらなる未来を予測する能力も失ってきている。医療現場においても日々の患者の病気の治療が優先され、医師も看護師もへとへとに疲れてきている。武見太郎によって予防医学の重要性が説かれて久しいが、がんといい、肥満や糖尿病といい、患者は増えつづけ、医療はいつも後手後手に廻ってきた。

今こそ将来の医療事情を見据えた取り組みが必要である。特に増える一方の糖尿病はそれに続く合併症を考えると大変な問題になろう。このような状態に対処するには医療側も診療体制を進化させ、チーム医療を向上させねばならない。患者の気持ちを第一に、医者のみでなく、臨床心理士、看護師、栄養士、介護士などが医療チームを組み、患者ができるだけ QOL をたもち社会復帰をできるように支援する体制が必要である。場合によっては尊厳死を受け入れる緩和ケアも必要であろう。 そのためには医療チーム同士が共通語をもって語れるような場が必要である。現状は医師は栄養学にうとく、管理栄養士は医学に疎い。本誌はこれら医療チームに属する人が同じ問題意識をもってコミュニケーションできるような場として提供したいと思っている。

また栄養療法に用いられる機能性食品や食品素材も日々進歩している。在宅ケアも考えると食品表示や新規食品の開発など、社会全てで取り組まねばならない問題も多い。

私たちの目指す未来は毎日の現場からつながっていくのだ、という意識をもって「医と食」につながるすべての人と手をたずさえて進みたい。 2009 年 4 月 渡邊 昌 [/toggle]

【目次】

栄養学の礎を築いた人々 第1回「Francois Magendie」 1
病理学最前線「ラ氏島」ルイ・ジェームス 2
コンテンツ 4

創刊に寄せて    編集長 5

鼎談 栄養療法にのぞむ 清野裕、折茂肇、渡邊昌 6

特集 「糖尿病最新治療法」         13
1 糖尿病食事療法UPDATE    渥美義仁 14
2 わが国の糖尿病の大規模臨床試験の現場から  加藤正之、泉和生、野田光彦 17
3 インスリン分泌機構とSU 剤の再評価 清野 裕 23
4 糖尿病患者のケーススタデイ 武田美由紀 27

「在宅医療の現場から」 英裕雄 30
食介護の視点からみた嚥下困難食の新基準 手嶋登志子 32
栄養管理実施加算を知ろう  35
診療報酬における栄養・食事管理について  佐々木 健 36
医療と哲学  出浦照国 38
文化人が綴る食の随想「温故知食」  黒岩比佐子 42
諸外国に学ぶ 「管理栄養士のキャリアパス」 笠岡(坪山)宜代 44
NR のためのNR 講座「NR とは」 梅垣敬三 西山聡子 46
大豆は世界を救う 「SNIJ ニュース」      48
テーラーメイドヌトリションはフードアイコンから  渡邊昌 52
編集委員会&広告 56